【前回のあらすじ】
その日のノリでプティパ(の篠崎こころ目当て)という地下アイドルのライブに参戦した僕はささやかな熱狂と心地良い疲労感につつまれて秋葉原を後にし、帰路途中の神田明神にて「良い体験をしたなあ」と独りごちるのだった。
【つづき】
ライブに行くまで
さて、5月22日金曜日、無事御茶ノ水の電車に乗った僕は、初めてのアイドル「現場」体験の興奮冷めやらぬままに「次の現場はどこだろう?」と検索を試みた。するとなんと翌日23日土曜日、地元近くのライブハウスでプティパが対バンライブをするということが判明。しかも1500円プラスドリンク代という安さ。これは、と思い早速予約するべきだったのだがその時の僕はまだ決心がつかなかった。今日行ったばかりだというのに明日も金を払っていくというのは、さすがに自分でもついていけない速度で惹かれすぎているというか、少し抑えておくべきなのではないかという謎の自制心が働いたのだ。そういうわけで金曜日はアイドル関係のブログを読むなどして終わった。
翌日23日土曜日。午前中のバイトが終わり、僕はまたアイドル関係のブログを読んでいた。ふーむふーむ、などといっているうちに時刻は16時を回っていた。例のライブは18時開演だったので、行くのならもう決断しなくてはならなかった。で、結論から言うと僕はチケットを予約した。ここで行かなきゃ一生行かないで終わるような気がしたからだ。ライブのチケットを取ったのは初めてだった。
ライブ到着
そして現場へ。新大久保のEARTHDOMというところで、Gマップに表示される場所に到着するも入口がよく分からず外でグダグダしていた。グダグダというのは、具体的には「EARTHDOM」「プティパ」「新大久保 ライブ」などでツイートサーチをすることである。まあそんなくだらないことをしているうちにいよいよ時刻も迫ってきたのでこれはいかんと思い、地図上の建物に接近してみることに。すると地下へ続いているっぽい階段を発見したので、勇気を出して下りてみるとそこがEARTHDOMだった。受付のおっさんに2000円を渡し、ドリンクチケットを貰って中へ。
人はまだ10人ぐらいしかいなかった。その人達はどう見てもアイドルオタク的風貌をしておらず(おそらくは対バン出演のバンド目当ての人とかだと思う)僕は居場所がなかった。適当に壁際に寄りかかってツイッターをチェックしようと思ったのだが、LTEが全く繋がらない。やむを得ずメモアプリに周囲の状況を克明に描写していた。例えばべろべろのダメージパンツを履いているおっさんのことをハゲだと思っていたのだが、実は後ろから見ると弁髪であった、とか(あとでそのおっさんが実は出演するバンドのギター&ボーカルであることを知ることになる)。
そんなことをしていると、近くで床に座っていたお兄さんが煙草を吸い出した。こういうところって吸っていいのか! ちょっと驚いたが、そんな僕の立っている脇に吸い殻入れがあることに気づいた。そういうものなのか。僕も手持ち無沙汰なので煙草を吸って開演を待っていた。
2本目を吸い終わっておいおいもうストックがないよどうすんのと途方に暮れていたら、ようやく最初のバンドの演奏が始まりそうな機運が高まっていた。客もいつのまにかハウスの半分を埋め尽くすぐらいには増えていた。
で、最初のバンド。メタル? の音楽だった。とにかくスピーカーの音圧がすごい。僕は後ろのほうで腕を組んで見ていたけど、これは前の方に行ったら耳が死ぬんじゃないかという危惧を覚えた。音というか振動である。ベースの音が和太鼓みたいに(これはあんまり適切な比喩じゃないような気がするけどそれ以外に思いつかなかった)内蔵をにダン、ダン、と揺さぶる。着ているシャツがびりびりしているのさえ分かった。最初はやべえよやべえよ……と思っていたけど、後ろの方にいる人達はスマホ見たりしていて、ああ、ああいう感じでいいのねとちょっとした余裕が生まれた。というわけで目当てのプティパ以外はそんな感じで過ごしていた。まあ、適当に手拍子したり身体を揺らしたり足でリズム取ったりも少しはしていた。
プティパ登場!
さて、目当てのプティパである。いつどの順番でプティパが登場するのかは分からなかったけど、なんとなく雰囲気を察知し「次は前の方に行かねば!」と行動した結果、プティパがステージに現れた。よかった。セトリは前日の秋葉原TwinBoxGarageでのものと同じだった(と思う)。曲名は分からないけど、なんとなく耳と身体で覚えていた。というわけで昨日の勉強を活かし、僕もMIXやらケチャやらを全力でやった。コールがよく分からないところもあったけど、そこはノリで「アー!」とか「オー!」とか言っていた。大事なのは内容ではなく魂の高揚感なのだ。篠崎さんの「金髪ー!」「クソ野郎ー!」もめっちゃ大声出して叫んだ。『nerve』のサビで最前方の人々の間から腕を伸ばして接触を試みた(が、オタクたちの汗が腕につくだけだった)。間奏で篠崎さんが「行きますよ! こっちから!」とコールした後の、観客皆で右端から左端を往復するみたいな動きも超ノリノリで行った。
こっちにレスくれないかなという淡い期待を胸に――いや違う、大音響の音楽と、推しが目の前で歌い踊っているという白熱感によって――無意味に拳を高く上げたりしていた。結論から言うとめちゃめちゃ楽しかった!
無上の多幸感に浸っているなか、プティパが退場。そのあとはほぼ惰性で後ろの方にいた。スマホはつながらず、煙草は切れたので、結局ライブを見て無理にでもバイブスを"""""ブチ上げ"""""ていくしかなかった。とはいえさっき書いたように適当にノッていただけである。嫌ならさっさと帰れよと思われるかもしれない。しかし僕には残らなければならない理由があった。それは終演後の物販――すなわち「チェキ撮影」である。
チェキ撮影
すべての演目(?)が終了し、物販の説明がされる。プティパはドリンク引き換えのバールームで行うとのこと。壁際に置いてた鞄を回収し、人混みの中、バーカウンターでビールを貰いに行った。落ち着く場所もなく、何より人が多かったので一気に飲み干してコップをカウンターに置いた。
しばらく人混みの中を待っているとプティパのメンバーが登場し、待機列が形成される。僕は物販の最後尾に立ち最後尾プラカードを持っていたのだが、一つ前の人が列を抜けた所為で列がどうなってんのかよく分からん状態に。「物販てここですか?」と訊いて回るという屈辱的な体験を経て、無事メッセージ入りツーショットチェキチケット(1000円)を購入。
篠崎こころ列に並んだところで、ああ、ついに俺はやってしまったのだなと実感した。まさか昨日、ノリで無料ライブに参加したところから今日アイドルとチェキ撮影するところまでいってしまうとは……行動力の高さに自分でも驚いていた。しかしこれも今日やらないと一生やらずに終わりそうな気がした。
撮影が始まり、自分の番が近づくとたいへんに緊張してくる。ビール一杯分の酔いは何処へ行ってしまったのか……頭のなかで冷静に篠崎さんとの会話をシミュレーションする。うまくいかん気がした。去年新海誠監督のサイン会に行った時も事前に構築していた会話ルートは2言目で破綻したので、あんまり深いことは考えずに、とりあえず「とても楽しかった、また行きたいと思う」ということだけは伝えようと思った。そして実際の会話はこういう具合だった。
俺「はじめまして!」
篠崎「はじめましてだよね? はじめまして!(めっちゃ笑顔)」
俺「よろしくおねがいします(チケット渡す)」
篠崎「はーい。どう撮ろうか?(めっちゃ笑顔)」
俺「じゃあええと、こういう感じで……」
篠崎「こう? これでいい?笑(めっちゃ笑顔)」
俺「ええ、そういう感じで」
――撮影――
篠崎「お名前は?」
俺「えーと、●●(←名前)です。●●」
篠崎「●●さんね!(めっちゃ笑顔)(チェキカキカキー)」
俺「僕こういうアイドルのライブ来るの初めてなんですよ」
篠崎「えーっ! そうなんだー!(めっちゃ笑顔)他のアイドルのライブとかもないの?」
僕「ええ、ほんと初めてで……でも、こう、お、大声出して何か、叫んだりするのって、、すごい楽しいですよね(←ここで何故かめっちゃキョドる)」
篠崎「そうだよねー!(めっちゃ笑顔)」
僕「今日は本当に楽しかったです、またこういうの見に行きたいと思いました」
篠崎「ほんとー!? ぜひぜひ、来てきて!(めっちゃ笑顔)はい、どうぞ!(めっちゃ笑顔)」
僕「あああありがとうございます!(←なぜかここでもキョドる)」
篠崎「じゃあ。今日はありがとね!(めっちゃ笑顔)(握手を求められる)」
僕「あっ、はい!(握手)こちらこそありがとうございました。また来ます!」
篠崎「じゃあねー!(めっちゃ笑顔)(手フリフリ)」
これが神かと。端的に言うと神感しかなかったですね。ステージの上の神格化された篠崎こころと同じところで写真を撮り、会話し、握手までできる……もうね、神としか言いようがない。神。圧倒的神。これは前田敦子もキリストを超えるわ。
帰り
そんな神的な体験をし、地上へ出た。近くのラーメン屋でラーメンを注文し、待っている間にさっきのチェキを見た。俺、キモすぎるな……それはもう顔のデカさとかからして駄目なわけですよね。もう。ていうか篠崎さん顔ちっちゃくてめちゃめちゃかわいかったな……と後になってから思った。実際会って喋ってる時はそんな外見的特徴よりも神との対話による神秘感のほうが上回っていたので知覚できなかったけど、実際に近くでみる篠崎さんはとんでもなく可愛かったです。
チェキには「●●さん 2015.5.23 初チェキありがとう笑 kokoro♡」と書かれていました。
すばらしすぎるだろ、アイドル……
20年間今まで生きてきて感じたことのないたぐいの恍惚を味わいながらラーメンを食べた夜でした。
しかしこれで話は終わらない(つづく)。