研ぎ澄まされた孤独

とりとめのない思考を無理に言語化した記録

営業資料にダメ出しをくらい、連休返上で泣きながら仕事してる男の末路

年末から用意していたあるプロジェクトの営業資料(直属の課長+営業部長のオーケーをもらった)を現場の営業部隊に回したら、ここをこうしろああしろとの批判が噴出し、自宅で飲酒しながらほぼすべての資料を作り直している。三連休だからよかったが、通常の土日だったら心身がもたないだろう。なお、これを書いている現在も資料の作り直しは終わっていない。今年も始まったばかりだというのにもかかわらず最低な気持ちであり、三連休を楽しむことができず憂鬱であり、ひたすらうんざりしている。

しかしそんなことばかりいっていても仕事は終わらない。終わらないと大変なことになる。今の僕に課せられた使命は仕事を終わらせること、そしてそのためにこの負の感情を放出しデトックスし、可及的速やかに過去のものにすることである。

さて、この負の感情は、すくなくとも以下の3つのセグメントに分解して理解しなければならない。

 

1.現場との意思疎通の失敗

2.後輩への個人的な苛立ち

3.マネジメントの失敗

 

1.現場との意思疎通の失敗

本プロジェクトの資料は、制作に取り掛かる前に直属課長+営業部長のオーケーをもらった。だから営業部隊との摩擦が生じるのは本来おかしなことである。だって僕が営業部隊に回したのは、営業部隊を取りまとめる人物を通した資料なのだから。にもかかわらずこのような事態が起きた背景には、有能な人材が流出したという極めてシンプルな事実がある。

じつは、当社創立以来の古株である営業部隊の課長・Uさんが昨年9月に退職した。優秀な人材であることはペーペーの僕でもわかった。周囲の意見を十分に吸い上げつつ、自身の経験に裏打ちされた決断力でやるべきこととやるべきでないことを切り分けていく姿はじつに頼もしかった。彼についていけば間違いはない、そう思わせる魅力があった。彼は大手IT企業の◯M◯に高待遇で迎え入れられた。彼の実績、経験、能力からすれば不思議はなかった。こんな会社見限って当然だ。

それからが地獄の始まりだった。営業部隊の課長に収まるべき人材がいなかったのである。おそらく上層部も大変だっただろう。結果として、別の課の課長・Mさんが営業部隊の課長に転属になった。しかし彼女は現場のことをなにも知らない。ゼロからのスタートだった。

MさんはMさんで優秀な人だ。転属になった初日からほうぼうの取引先に挨拶に回っていた。毎月僕が営業課長に送っている資料の作成が遅れたときも、MさんはUさんの時代と同じように、しかし優しく催促してくれた。「自分は営業のことをよくわかっていない」ということを隠さず、謙虚な姿勢で学んでいた。早晩リーダーシップを発揮し、営業を引っ張ってくれるだろう、そう思っていた。

異変が起きたのは10月後半のことである。いつの間にかMさんが会社にこなくなっていた。噂話を耳に挟む。「Mさんは全然だめ……」「Uさんが課長の時代はもっと……」。営業部隊にはOさんというおばさんがいる。もともと営業ではなく制作側で仕事をしていたが、なんやかんやの理由で営業に飛ばされた人だ。その人が、新しく自分の上に立ったMさんのことを批判していた。平たく言えば、「いびり」をしていたのだという。もっとも僕は直接現場を目撃していたわけではないので、どのように陰湿な攻撃が行われていたのかはわからない。

だが、僕もOさんにはさんざん叱られていたので、Mさんがいかに精神的苦痛を被っていたのかはよくわかる。いや、わかるだなんておこがましい。Mさんは現場の営業という慣れない仕事を、しかも課長という役職で一任させられている。慣れない仕事に加えプレッシャー、さらにめんどうくさいおばさん……こんな仕打ちがあるだろうか。

それから3ヶ月が経った。めんどくさいおばさんのOさんは制作側の部署に異動することになった。僕としてもめんどくさい人がいなくなり、せいせいした気分であるが、それは同時に営業の人員の縮小も意味する。現場の負担が目に見えて増え、部全体のパフォーマンスが急速に落ち込みつつあった。Mさんは未だに職場復帰できていない。

かくしてトップを失った営業部隊は、他の課、たとえば僕がいる課との連絡線が途絶え、営業資料作成の相談をするにしても誰にすればいいのかわからないという状態が続いている。僕が現場の人間に勝手に聞けばいいのかもしれない。もちろん比較的仲のいい営業に相談するということは、個別のミクロな事例ではやっている。しかしそれにしても「順番が違う」わけだ。本件はわりと大きなカネの動くプロジェクトであり、それゆえこれまでは営業の課長と密にやりとりを行っていた。

いま、資料の相談は直属の課長、あるいは弊部部長にするのが筋だということになっている(実際に相談をする際はそのように、とのアナウンスがなされた)。しかし直属の課長はあくまで直属の課長であり、僕と同じ内勤業務に従事しているため、現場のことはわからない、部長は現場の経験者ではあるが一線を退いて20年になるという。これでは資料をどうすべきかなどわかるわけがない。

というわけで、課長と部長の許可を得て僕が作った資料は、現場の営業部隊によりあらゆる角度から批判を受けた。「一度営業行ってきなよ」と言われ、今度同行することに――させられることに――なった。

 

2.後輩への個人的な苛立ち

いつごろからかは忘れたが、僕の右隣に座っている新卒1年目の後輩がいつも机に肘をついている。頬杖もよくついている。暇なのだろうか? 課長がいるときなどもそしらぬ顔で頬杖をついている。肘をついて顎に手を添えるポーズは、する人がすれば、仕事に思索を巡らせているように見えるだろう。

しかし新人がそんなポーズをしてもやる気がないと思われるだけだ。実際僕も、彼女はたいへんにやる気がないのだと思う。それは酒の席での言葉の端々から伝わってくる。というか、「でも先輩もやる気ないですよね?」とでも言いたげな空気さえ伝わってくる。

だとしたら猛省したい。僕は確かに根源的にはこの仕事にやる気なんてない。もしかしたら僕の仕事に対する態度も、あまりやる気がないように見えるかもしれない。だけどね、お前みたいにやる気の無さを自らアピールしようとしたりはしねえよ。それにさ、俺はお前に仕事を振ってるだろ。毎日いろいろ頼んでるだろ。そしてその仕事は、俺からの個人的依頼である以前に、課長からも前もって命じられたタスクだろ。それなのになんで堂々と肘付いてるの? 頬杖ついてるの? ふざけてんの? 

そしてそのしゃなりしゃなりとして手の動かし方がムカつくんだよ。やる気のない不良社員というよりは、「わたし退屈だわ」と窓の外を見つめるお嬢様といった比喩のほうが適合的かな。想像してみてください、必死に資料を直しているときに隣で1年目の後輩が「わたし退屈だわ」と頬杖をついている状態を。ブチ切れたくなりますよ。

と、ここまで言ったところでおわかりいただけたかもしれないが、先に述べたプロジェクトというのは、実は僕と後輩で共同で進めている。後輩は本件に携わるのが初めてであるため、一応僕が教えながら進めているが、来年度は僕は異動になる可能性が高いため、基本的には僕は教えるだけで、具体的な作業は彼女にやらせるようにしている。自分でやったほうが早いし正確なのだが、それじゃ教育にならないからだ。しかしそれが、いま述べたような個人的いらだちや嫌悪により、円滑とは程遠い進捗状況だったというのが本項の趣旨である。

 

3.マネジメントの失敗

要するになぜ僕はうまく立ち回れなかったのだろうというのが今回の反省点である。課長と部長に信頼がおけないのであれば、事前に現場にヒアリングをして、その意見を反映した資料の雛形をつくったうえで、課長と部長に打診する、という順番を通じてもよかっただろう。実際さきほども述べたように、本件のような大型案件以外ではこのような現場ヒアリングはしばしば行われている。意見の「吸い上げ」はなにも役職級しか行わないというものではない。

そして後輩への教え方が甘かった。しかしどのようにして教えればよかったのか、僕もわからない。冒頭に述べたとおり、資料の修正がまだ終わっていない。正直やるべきだったマネジメントについて考える体力がない。多分原因はいろいろあるだろう。例えば毎日決まった時間に進捗状況を確認する時間を取るべきだったとか、後輩から相談を受けたときの僕の態度が冷たいとか(僕も自分の仕事で手一杯なんですよ)……しかし現時点では、未だに後輩へのヘイトが僕のなかに澱のように溜まっている。

たとえば仕事中に肘をつく行為は、仕事のマネジメントとか進捗管理とかそういった範囲を逸脱した問題だ。だから……なんというか、指摘しづらいのだ。「仕事中に肘つかないでね」と。もうよくわからない。課長が頬杖をついていても、「なにか考えているんだな」と思うだけだが、後輩が肘をついているとムカつく。つまり極めて個人的な苛立ちにすぎないということは僕自身よくわかっている。

というかそもそも後輩が仕事中に肘をついていてイラつくのはもしかして僕だけなのではないだろうか。そのあたりの合意は周囲の先輩方とは取れていない。というか確認もしづらいだろう。「肘ついてるのムカつきません?」とか。言えるわけない。

仕事の進め方、手順、メールの文面等を注意するのはなんの問題もないが、態度を指摘するのはなかなか難度の高いことだ。それは人の内面に立ち入る行為であり、相手の存在の否定につながりかねない。僕のような繊細な人間は態度に対する指摘と自分の存在への評価をいともたやすく短絡させてしまうので、こうした指摘にひどく敏感だ。まあ、後輩がどんな人間かは知らんが、いずれにせよ「肘つかないでね」とは僕が言うのはなかなか厳しい――だってたかが1個上の新卒2年目だし。課長が言うならともかく。

そして筆が乗ってしまったので書くが、上記の態度に加え、彼女はどうも当事者性に欠けている。本プロジェクトは多額のカネが動く重大な任務であり、実行には多数の手続きを踏まえる必要があり、営業資料の作成にも膨大な時間がかかる一大事業であることは、昨年11月にすでに伝えた。そしてことあるごとに「これはけっこう骨だよ」とこの仕事の困難さの認識に努めた。

けれどもそれは彼女にはいささかも伝わっていなかったようだ。実際、営業資料が大幅にダメ出しを食らった金曜日、資料の一部修正を彼女にお願いしたが、それは金曜日中には終わらなかった。俺が食堂でメシを食ってオフィスに戻ったらいつの間にか帰っていた。頼むぜ。俺はこうして全資料をドロップボックスにぶち込み、連休にもかかわらず、自宅で作業してるってんだから。頼むぜ。なあ、頼むぜ……