やっと買った、ハルヒ最新刊。前作『驚愕』からなんと約9年半(!)。この9年半で角川書店はKADOKAWAになり、背表紙のデザインも変わった。なお初版限定でリバーシブルカバーになっているので、裏返せばいつもの見慣れた赤い背表紙になる。
のいぢ絵も、変わったなあ……
以前の僕なら発売初日に買ってただろうけど、買えなかった。この9年半で僕は学生から社会人になっていた。忙しかった。時間が捻出できなかった。11月25日の発売から十日後、中野ブロードウェイの明屋(はるや)書店に行って購入した。
9年半前、高校の授業終わりにここにきて『驚愕』前後巻+『観測』を買った
よく広告のコピーで使われているセリフですが、個人的にはこれそんなに「ハルヒ」を象徴するセリフだとはあまり思わないんですよね……じゃあ何がいいんだって言われると迷いますが
全巻重版して巻き替えたと思しき帯
で、読んだ。短編3本立てで、2本目の「七不思議オーバータイム」はザ・スニーカーの増刊号で読んでいたので飛ばした。
いやあ面白かった。久しぶりにハルヒの世界に、というかキョンの語る世界に入れた。そのことに喜びを感じる。そうそう、自分のセリフを鍵カッコでくくらず、地の文で表現するんだよな。まぎらわしい書き方。ハルヒ以外でそんな文体見たことない。谷川流の発明なのか、ほかにそういう書き方をする作家がいるのか。まるで英文学の自由間接話法みたいな書き方だ*1。
キョンと言えばややマニアックな知識に基づいた比喩表現をするというイメージが昔からあり、それを博識で教養がありかっこいいと感じる人もいるだろうが、僕はやや衒学的で鼻につくなと思うことがあった。とくに「分裂」「驚愕」はながるん先生がこれまでノートに書き溜めていたのであろう(?)表現のストックをマシンガンの如くキョンにしゃべらせている感があり、やや不自然とさえ思ったのだが、今作はわりとスッキリした読み味で大変よかった。
あてずっぽナンバーズ
元旦、初詣。来年の正月はコロナで密を避ける人が多いだろうななんて現実世界のことを思いながら読んでしまった。嫌な読み方だ。古泉が謎を出してキョンがしぶしぶそれに付き合う、といういつものパターン。でもその謎解きがメインのストーリーをドライブする要素になってるエピソードは珍しいような。最後の「景品」もいいよね。こういうの、すごくうれしいよね。非常に短く、サクッと読める短編。1枚だけある挿絵もすばらしい。サイドストーリーはこうあるべきだね。まあ僕が一番すきなサイドストーリーは「サムデイ・イン・ザ・レイン」で不変なんですけど。
鶴屋さんの挑戦
まず最初に思ったのが、ああ、確かにハルヒってミステリ要素濃かったよなあということだった。タイムトラベルとか閉鎖空間とか宇宙人バトルとかのイメージも強いが、古泉がミステリオタクという設定もあり、謎解き話は多い。ちょっと解くの難しすぎない? と思ったが、最後まで楽しく読んだ。僕には推理はできなかったですね。
基本的には文芸部室で鶴屋さんから送られてくるメールを読んでいくという話。屋内完結型ミステリ。ある種、クローズドサークル。でも「孤島症候群」「雪山症候群」と違うのは、切迫感がぜんぜんないというところだな。鶴屋さんの暇つぶしのメールを暇つぶしに読んでるだけだからね。
古泉が後期クイーン的問題を出して、ミステリの成立要件について議論するあたりとか、ふつうに勉強になったし面白かった。けれども小説の登場人物が小説について語るというのは、ともすれば自己言及的な話になりかねない。ながるん先生は古泉にメタレベルから「ハルヒ」について語る特権を付与させようとしてるわけではないのだろうけど。結局は小説内の登場人物は作者の設定のなかでしか動くことができず、それゆえ探偵の推理が無矛盾であることを探偵自身が証明することはできない……うーむ。
あとがきで「鶴屋さんの一人称を書いてみたかった」という旨の事を言っていて、まるで同人誌を書きたくて書きましたとでもいうような言い方で少々不安になった。ハルヒの本線――そのような枠組みはとくにないのだが、一応、ハルヒシリーズを完結に向かわせるグランドシナリオ的なエピソード――を先に進める気は、ながるん先生にはないのだろうか。もちろんサイドストーリー的な短編や、ミステリ仕掛けの短編も面白い。けれども僕たちが「憂鬱」を読んだときに感じた衝撃は、そういうところにあったわけではないように思う。だから僕は「驚愕」のちゃんとした続きを望んでいたのだが、そういう話ではなかった。まあ、「驚愕」のラストもぜんぜん覚えていないのだが。
つぎ、続刊が出るのは何年後になるんだろう?