研ぎ澄まされた孤独

とりとめのない思考を無理に言語化した記録

コロナ禍にマッチングアプリ6ヶ月やった結果

ダメでした。

前回↓の続き。

マッチングアプリ3か月やった結果/努力したこと、会った人のこと - 研ぎ澄まされた孤独

知的好奇心があり映画や音楽の趣味なども合うHさんと最後に会ったのはオリンピックの開会前。すごく楽しくて、LINEのやりとりをして8月にまた会う約束をしたが、感染者数の急増により向こうの提案で中止になった。で、かわりにちょっと電話しようと提案したのだが、当日になって相手の体調不良でキャンセルになった。マッチングアプリの話とはいえ、この頃はもうアプリは一切やってなかった。この人とLINEでやりとりしてるだけだった。ここまでが前回までの話。

なんにせよ、こんな状況で会おうなんて言えない。なのでその後、2週間に一度のペースで雑談のLINEを送った。暑いですねとか、僕もワクチン打ちましたとか、最近こんな映画見たんですけど見たことありますかとか……アプリをやってた時みたいにいちいち疑問文を付け足さなくても自然に相手が返事をくれたのが嬉しかった。とはいえ長々と続けるつもりもなくて、一回の会話は3、4往復ぐらいで終わった。しつこいと思われない間隔で単純接触を増やそうと考えていた。

2週間に一回のLINE。いつ感染者数が減少傾向になるかわからないまま、それだけが唯一のつながりだった。LINEをしてない間は、こんなに間が空いたら忘れられちゃうんじゃないか、冷めてしまうんじゃないか、と不安だった。でもあんまり何回もLINEを送ったらしつこいと思われそうで、ジレンマに苦しみ続けた。

9月後半になって、感染者数が急速に減っていった。緊急事態宣言の解除が検討されている、というニュースが出た3日後ぐらいに、相手の家からアクセスのいい街で換気のよさそうな店を探して、LINEで提案してみた。返事は思ってたよりも早く来た。嬉しかった。10月最初の日曜日に会うことにした。

今思えばウケるのだが、前日の土曜日は飛行機で島根に行き、縁結びの聖地・出雲大社に参拝してきた。必要緊急の日帰りの遠出だったので許してほしい。

で、日曜日に会った。2ヶ月間ちょっとぶりの再会。カフェのテラス席で2時間半ぐらいしゃべった。そのあと街をぶらぶら散歩して、「もう5時だから帰らないと」と言われたので、駅に向かった。

いろいろしゃべった。映画とかkpopとか修学旅行とかスイーツのトレンドとかいろいろ話した。でもなんか、バイブスをうまく合わせられなかった。7月に会ったときみたいにギアを上げられなかった。長年の友達と話す時みたいなゆるい感じになってしまった。話を弾ませられなかった。それはカフェでケーキをつついている時も感じていた。

「また連絡しますね」。そう言って駅で別れた。好きなのに、意に反して話を盛り上げられなかった。久しぶりで緊張してしまったのか、逆に2ヶ月間LINEだけしてたから勝手に頭の中で友達みたいになって気が緩んでしまったのか……。つまりは1回目、2回目のときはビジネスの会話みたいに、けっこうお面を作るようなしゃべり方をしていたのだが、3回目になってメッキがはがれたというか、悪い意味で「素」が出てしまった。

家に帰ってお礼のLINEをした。また今度ご飯食べましょうと送ったら、絵文字つきで承諾するような返事が来たので、そんなに悪くなかったのかな、と思った。その返事に「また今度」というワードが含まれているところが引っかかったけど、たんに僕の言葉をトレースしてくれたんだろうとポジティブに解釈した。

で、今週の木曜日にお店の候補を送ったら返事がなくて、今朝、つまり土曜日に返事が来た。予定が詰まっててお会いするのが難しいですとのこと。

そのLINEが来たのはちょうど浦安駅に下車した時のことだったのだが、全身から一気に力が抜けた。必死で改札を出て街を歩くのだが、腰が引けて髪の毛を手でくしゃくしゃにしながらよろよろの風体で喫煙所に行き、返事を打った。着信から約10分後の返信。相手を不快にさせないよう考えたごく短いテキスト。こんなに早く返信したのはほぼ初めてだ。送った後、iQOSを2本吸った。

これで終わりか。……これで終わり?  マッチングしてから約5ヶ月。そんなに濃密ではないかもしれないけど、たくさんの共通点を見つけて、メッセージのチャットも楽しかった。2回電話して、2回会った。長い長い緊急事態宣言期間を耐えて、もう1回会った。なのに、こんなにあっけなく……

駅に戻る途中、とある個室居酒屋の看板があったのだが、そこに書かれた店名がまさにその人の名前で卒倒するかと思った(「スナック・カオリ」みたいな感じ)。

街ゆくカップルを見た時に、彼らはどんだけすごいことを成し遂げたんだと思ってしまう。それに比べて自分はなんなんだろう?  アプリ上でメッセージしてた時、新大久保にマカロンを食べに行った時、吉祥寺にタイ料理を食べに行った時はシュレディンガーの猫状態だったのに、その後「ない」ほうに収斂していったということがあまりにも悲しすぎる。

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お腹がすごく空いていたのでパン屋に入ってトレイとトングを持つのだが、手に力が入らなくてトレイを落としてしまい、店内にグワングワンとすごい音が響いた。店員さんが「どうぞ新しいの使ってくださいね、これ消毒済みなので〜」とトレイを渡してくれ、優しさに困惑した。

パンを食べながら、さっき自分が送ったLINEを見返した。まだ既読はついてない。……なんかこれ、まだ未練あるように読めなくもないな。そう思って一言だけLINEを追送した。そしてパン屋を後にし、映画シャンチーのエンディング「Fire in the sky」をループ再生させながら電車で家に帰った。物語の終わりという感じのメロディ。

帰宅して、ぐったりしてベッドに倒れ込んだ。頭の中がぐちゃぐちゃだった。ふとスマホを見たら、LINEの返事が来ていた。まさか返事が来るとは思っていなかったので、すこし驚いた。それはたった二言の返事だった。でもそれがあまりにも、なんというか、もちろんここには書かないけど、その人の性格を表すようなとても優しい言葉で、ほんとにうれしくて、みるみるうちに目に熱い涙が溜まり声を出して泣いてしまった。そういうところが好きだったんです。それを告げる機会もなかったけれど。

10分ぐらい考えて、スタンプを返した。すぐ既読がついた。それですべてが終わった。

そのあと衝動的に髪を切りに行った。さっぱりしたあと、いまアイリッシュパブでビールを飲んでいる。ーーキルケニーっていうエールビールで、甘みがあって美味しいんですよね。琥珀色できれいでしょ?  今年で日本への輸入が終わるんだって。また緊急事態宣言になる前に、今のうちに飲んどかなきゃねーー

最後のLINEの応答は、パッと見た感じ、すごく爽やかな別れという感じ。物語はここで完全に終わっている。お互い納得のうえで、決着がついた感じに見える。縁がなくてもう会わないと分かってるのにお互いの健康を気遣うというエンディング。村上春樹作品の何かであった「我々は励ましあって握手した。」みたいなシーン。スクショを撮って眺めてみても、すごくいい幕切れだなと思う。

……これがフィクションならね。ほんとはもっといろいろ言いたいことあるに決まってるだろう。ふとLINEを開く。僕はさらりと、またいつか!  お元気で!  的なことを言ってるのだが、そんなさっぱりと割り切ってドライになれてるわけないでしょう。それは当然虚勢であり気丈に振る舞ってるだけで、実際は泣きたい気持ちでいっぱいだよ。今後しばらく、僕は確実にこのことを引きずるだろう。それはもうしょうがない。こういう苦しみは簡単には癒えないということは知っているので。

マッチングアプリは再開してみるけど、多分身が入らないと思う。いいねしてマッチングして(マッチングする確率は1割ぐらい)、しばらくやりとりして(半分以上の場合ここで返事来なくなる)、電話してちゃんと話が盛り上がったら(半分ぐらい)お茶に誘って、そっから仲良くなって……またいいなと思う人と会えるまでどれだけのコストを払えばいいのか。それがキツい。

先週の3回目のお茶をもう一度やり直したい。