研ぎ澄まされた孤独

とりとめのない思考を無理に言語化した記録

見知らぬ人に影響したい

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見知らぬ人に影響するのが好きだ。

たとえば夕暮れ時に信号待ちをしている時のこと。ふと空を見ると、夕焼けがとてもきれいなグラデーションを空に映じていた。深い紫と燃えるような赤が滑らかなスペクトラムをつくっていて、まさに昼と夜のあわいを思わせた。

僕はクッと口角を上げ、スマホを取り出す。周りには同じく信号待ちをしている人たちが、向かいの信号機を見たり、スマホを見たりしている。その中で僕は、笑顔を浮かべ、体を西の空に向け、シャッターを切る。大抵、周りの人はなにも反応しない。けれども2回に1回ぐらい、誰かが反応する。向かいで信号待ちをしている人の中の一人が、僕のことを見て、「なんだろう」と西の空を向く。それで、スマホを取り出して写真を撮る。そんなとき僕はうれしくなってしまう。ね、キレイな夕焼けでしょう――。

丸の内で

こういうことがこないだあった。日曜日。丸の内で行われている「不快のデザイン展」を見に行った。人に危険を認識させるためにあえて不快感を催すようにデザインされたものを紹介している展示。たとえば都市ガスはもともと無臭の気体だが、ガス漏れしたときにすぐに気づくようにあの匂いを付臭している。私たちが「ガス臭い」と感じるあの匂いは、実はガス由来の匂いではないのである。

それを見終えると14時ごろで、おなかが空いたので東京駅で弁当を買って丸の内駅舎前広場で食べようと思った。僕は東京駅で弁当を買って外で食べる、というのをよくやる。

ecuteで弁当を買って、また広場に戻った。いい天気だし、寒くもなく暑くもなくちょうどいい気温だった。今年初めてライダースジャケットを着てきたけど、すさまじく適した服装だった。そして人でいっぱいだった。ここはいつも観光で来た人が写真を撮ったりしている。その中に、「私はいつもここで過ごしてますけど何か?」みたいな平然とした表情で、植木の周りにこしらえられたコンクリートの縁みたいなものに腰を下ろすのだ。今の時間はこの縁もほぼ満席。座るスペースがないわけではないが、パーソナルスペース的にそこには座らないだろう、といった隙間がいくつかあるような状態。鴨川等間隔の法則みたいな力学がここでは働いている。

たまたま人が出ていったところに座った。背もたれもない場所。しかもたまたま高さのあるところ(このコンクリートの縁は場所によって高かったり低かったりする)に座ってしまったので、脚を伸ばした状態だと安定しない。というわけであぐらをかいた。で、弁当を開ける。

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おいしそう。

 

で、食べる。

食べているあいだ、前の往来を見る。いろんな人が通っている。右からも左からも来る。ちょっと先の、芝生の囲いの前には誰かと待ち合わせをしている女性が不安げにスマホを見たり辺りを見回したりしている。皇居に続くメインロードには、記念写真を撮ってあげている家族やカップルがたくさんいる。自転車に乗って走っているところを「降りてください!」と警備員に指摘されて降りた男性がいる。

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遠くには、KITTEの展望デッキから丸の内を見下ろす人影がいくつも見える。右を見ると丸ビルと新丸ビルの高層階が太陽の光を反射してギラギラと光っている。その手前の都道402号線には、オープンエアー席を設けた観光バスが時折走っている。左を見ると風格ある東京駅の赤レンガの駅舎。僕のすぐ左側には、大きなキャリーケースを携えた女性が座ってスマホを見ていた。

 

弁当をむしゃむしゃ食べながら、そうやって駅前広場を観察する。前を歩く人とたまに目が合う。大抵、向こうが先に視線を逸らす。このコンクリートの縁のところであぐらをかいて弁当を食べている人なんてほかにはいない。あまつさえ、何か音楽を聴くとか本を読むとかもせず、ただ往来をぼんやりみながら食べてるだけの人なんていない。道行く人からしたら「この人、何?」となるだろう。そのいぶかしみから視線を僕に向けているのだろう。だが残念なことに、不審者を見ている時、不審者もまたあなたを見ているのだ。

 

そんな折、前を着物姿の女性2人が歩いて行った。2人は楽しそうに談笑していたが、僕の前を通ると、「ここでお弁当食べるのもいいわねえ」と言っていた。たぶん、たぶんだけど、僕が青空の下で無心に弁当を食べているのを見て言ったのではなかろうか。だとしたら、うれしい。ぜひやってみてほしい。東京駅で買った弁当を丸の内広場で食べるというぜいたくを味わいつくしてほしい。青空がおいしいから。

と、いうふうに良い気持ちになって、弁当を食べ終わり、空の容器をまとめて立ち上がった。東京駅って改札内にしかごみ箱ないんだよな……と思いながら駅のほうに向かうのだが、途中で、あ、成城石井行きたいから新丸ビルのほうに行くか、と思い、きびすを返した。すると僕がさっき座っていた席に、早くも女性二人組が座っていた。しかもなんと、2人のうち一人があぐらをかいて座っているではないか!

これはもしや……僕があぐらをかいているのを見て、それに影響されてあぐらをかいたのではなかろうか? もしそうだとしたら。もし、最初はこういうところであぐらをかくのは恥ずかしいとおもっていたけれど、あぐらをかいて弁当を食べている人間を見たことでその心理的ハードルが解除されたのだとしたら――。

こういうことに僕はうれしさを感じるわけです。