ゲームの中のキャラクターが、自分がある作られた世界の中に存在していることを自覚し、自分よりも論理的に高次の世界、すなわちゲームのプレイヤーの存在を認識するゲームというのがある。
それは一般的にはメタフィクションと呼ばれるのだが、僕にとってメタフィクションといえばEver17だ。
茜ヶ崎空が一番好きだった
高校生の時にシュタインズゲートにハマり、これに類似するゲームはないかとネットで探して発見したのがこのゲームだった。しかし発見した頃には受験勉強が始まり、ゲームをすることはやめてしまう。
僕がふたたびEver17に出会うのは大学2年生の時のことである。図書館で東浩紀の『動物化するポストモダン』を読み、感銘を受ける。続けざまに『ゲーム的リアリズムの誕生 動物化するポストモダン2』を読む。ここにEver17論が載っていたのだ。前からやりたいと思っていたゲームの評論が! 読みたいという欲望が最高潮に達する。しかし僕は読むことができなかった。なぜならまだ僕はEver17をプレイしていないからだ。であれば、プレイしよう。そしてその後に、この評論を読もう。そう決めたのだった。
僕がEver17を好きな理由は、冒頭にいったようにメタフィクションの構造をとっているからだ。もちろんメタフィクションの構造をとる作品というのはたくさんある。ゲームに限らず、小説や映画にもある。けれどもその中でも僕はEver17が一番好きだ。なぜか。
その前に、大雑把にストーリーを確認しておこう。
このゲームは、2017年5月1日に海中都市・Lemuで発生した水没事故を描いている。ゲームの開始時、プレイヤーは青年と少年の二人のうち片方を主人公として選択することを求められる。青年を選んだ場合、4人のヒロインに加えてプレイヤーが選択しなかった方、すなわち少年がゲーム画面に登場する。少年を選んだ場合は青年が登場する。このゲームは青年と少年のふたつの視点から、2017年5月1日のLemu水没事故を見るという構図になっている……
ところがゲームを攻略していくと、プレイヤーはある一つの事実を突きつけられる。実は、二人の主人公のうち、少年視点で進行される物語は、実は2034年に何者かによって意図的に引き起こされたもう一つのLemu水没事故だったのだ。つまり、一方でプレイヤーが青年を選択した場合は2017年のストーリーが開始され、他方で少年を選択した場合は2034年のストーリーが開始されるのだ。
これは普通に考えれば、青年視点のストーリーと少年視点のストーリーをプレイしていれば、何かがおかしいと気づくはずだ。しかしゲーム内では、クローンや人工知能のホログラム技術などのギミックにより、プレイヤーがその違和感に気づかないような工夫がされている。それにより、プレイヤーは青年視点と少年視点は、それぞれ同じ事件を別の視点から見ているのだと錯覚してしまう。しかし実際には、青年視点と少年視点は全く別の、しかしきわめて酷似した、模倣されたもう一つの事件を見ているのだ。
なぜそのようなアクロバティックなシナリオ構図が採用されているかについては、実際にゲームをプレイしてほしい。しかし意図が伝わらないのを承知の上で、あえて一言でいえば、それはキャラクターがプレイヤーを騙すことで、自らのメタレベルに接触しようとした試みであった。
僕がEver17 を好きなのはその部分だ。キャラクターがプレイヤーに語りかける、いわゆる「メタってる」作品というのは山ほどある。しかしそのなかで、キャラクターがプレイヤーに語りかける必然性、すなわち「なぜそのキャラクターはプレイヤーに語りかけなければならなかったのか」という問いに、真正面から答えられる作品はなかなかない。
いささか回りくどい言い方になってしまったが、要するにEver17は、キャラクターがプレイヤーに語りかけることやっと完成する作品なのだ。言い換えれば、キャラクターがプレイヤーの助けを借りることによってやっとキャラクターが救われるゲームなのだ。もちろんゲームというのはすべてそのような構造をとっている。キャラクターはプレイヤーの操作なしには動かない。しかし、キャラクターの側からプレイヤーの介入を要請し、そしてその要請に物語的必然性がある、それはこのゲームにおいて非常に重要な点であると思われる。
僕はEver17において……というか夜神ココによって、救われたのだ。ああ、こんな俺でも役に立てたんだな、と。
※ちなみにプレイ直後にも感想を書いています。
Ever17感想と考察(ネタバレあり) - 研ぎ澄まされた孤独
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