研ぎ澄まされた孤独

とりとめのない思考を無理に言語化した記録

『東京カレンダー』による街の過剰な物語化について

Image with no description

 ※2018年9月発売号

 

『東京カレンダー』は2001年から刊行されているグルメ雑誌だが、昨年4月から編集長が変わったのか、コンセプトを大きく転換している。

 

表紙を見れば明らかだ。

 

 

 

2017年2月発売号と3月発売号。

 

これが4月から次のようになる。

 

f:id:liefez:20181008230114p:plain

 

4月発売号と5月発売号。

 

「昼から夜へ」、「食から街へ」という転換が明確に見て取れる。

 

そしてもう一つ。

 

 

それぞれ2016年10月発売号、2018年4月発売号。

 

「大人の恵比寿へ!」から「恵比寿がやめられない」。ルミネ系のコピーと通ずるところがある。この感じを説明するのは難しいが、あえて一言で言えば「街の物語化」となるだろう。

 

2015年から東京カレンダーウェブサイトで連載された『東京女子図鑑』は、ライフステージの変化とともに住む場所を変える東京のOLの話だった。「三軒茶屋(笑)」「恵比寿って"子供の女の子"の場所だよね」など共感を得がたい傲岸不遜なレッテル張りが波紋を呼んだ。のちの人気連載「港区おじさん」等にも継承されるこの「街の物語化」というマインドは、東京カレンダーを読み解く上で重要な概念であると思われる。

 

僕は2年前、大学の卒論で『東京23区のなかでどのような街が人気か、人気の理由はなにか、そしてそれは都外からの移住者に人気なのか、都内の転居者に人気なのか』といったことを調べ、書いた。なので街について人がどのようなイメージをもっているか、メディアがそれをどのように読み取り、発信しているのかといったことには強い関心がある。それが手っ取り早くわかるのは、今であれば東京カレンダーなのではないか。

 

……と思ったが、東京カレンダーで描かれる人は前述の『東京女子図鑑』に象徴されるように、「ほんとに存在すんのかよ!!?」と思うような人ばっかりである。非実在東京人。たとえば、ここでひとつ下記の文章を見てほしい。

 

この街の大人でこなれたムードを味方につけたい。

 

高級外車から降り立った謎の紳士が下町風情の商店街を歩く。

黒のミニバンから芸能人と思しき美女が足早にビルに吸い込まれる。

裕福そうな外国人の親子が買い物を終えて、幸せそうに家路を急ぐ。

これはすべて同じ街の夕方の風景。

こんな独特でハイソな空気を醸し出す街が、他に東京にあるだろうか?

この街をマスターするのは難しい。逆に、使いこなせば東京で最上級に格好いいのだ。

 

東京カレンダーはこの街の魅力と活用法を徹底的にリサーチする。

→次号の東京カレンダーは……

 

 

次号は

麻布十番の真相。

六本木とも西麻布とも違う。港区の中でも成熟した大人しかいない街、それが麻布十番。この街に引き寄せられる男女の生態に迫ることで見えてくる「麻布十番の独特すぎるオーラ」。この空気感が男の格を上げ、女を輝かせるのだ。

 

上記は2018年3月発売号の巻末に、3ページに渡って(!)掲載された次号予告の文言である。 

 

麻布十番が、六本木や西麻布とは違うカルチャーをもっていると思っている人がどの程度いるだろうか。そして港区の中でもとりわけ成熟した大人がいるイメージを持っている人がどの程度いるだろうか。くっだらないフィクション、メディアの煽り立て、広告代理店の陰謀、は言いすぎだが、いずれにしても過剰な「街の物語化」がこの文章では行われている。*1

 

でも僕はこうした過剰な「街の物語化」を見逃したくない。それは前述の僕の卒論にも関わってくる。というのも、その卒論で得た結論の一つが、「港区は都外から都内に移住してくる人には人気だが、都内に住んでる人の移住先としては人気がない」だったからだ。いささか批判的な言い方をすれば「おのぼりさんに人気の街・港区」となるだろう。だからなんというか、港区の神格化、高級幻想はわかる気がするのだ。確かにこうした「文脈」で港区を語ることには一定のリアリティがあるのかもしれない、と。ここでいう「文脈」とは、恋愛や仕事等のライフスタイルのレベルを街のレベルと短絡させる思考法である。「渋谷は子供」……とかね。

 

それから僕には一つ疑問がある。東京カレンダーはもともと東京のグルメ紹介雑誌として始まった(はず、だ)。しかしあるポイントから前述の「文脈」を前景化させている。そこらへんはバックナンバーを読み調べる必要があるのだが、遅くとも「東京女子図鑑」が始まった2015年から、その兆候が見て取れる。しかし冒頭で述べたように表紙を含めた大胆な編集方針の転換は2017年に入ってから始まっている。まあそれは編集長の変更とかの事情があるのかもしれないが、そしてそこらへんはよくわからんが、しかし、2015~2017を過渡期として考えることはできる。「昼から夜へ」、「食から街へ」、「街の物語化へ」。ここ2年間、東京カレンダーで紹介された青山、恵比寿などの街がオシャレでハイソというイメージは以前から世にあったはず。ではなぜこうした変化が近年になって加速したのか?

 

 

本ブログ『研ぎ澄まされた孤独』は今後も『東京カレンダー』の動向を定点観測していく。

 

*1:ちなみにこの、本誌では3ページに渡る次号予告の煽り「構文」は2017年4月号からのテンプレになっている。それ以前の号では1ページだけの簡素なものだった。というか、普通雑誌の次回予告に3ページも費やさないよな……