研ぎ澄まされた孤独

とりとめのない思考を無理に言語化した記録

後輩に指摘する勇気

皆さんは、後輩の仕事のやり方を指摘する、ということをしたことがありますか? 僕はありませんでした。そう、ついこないだまでは……

 

僕は去年、部署を異動になり、新しいチームに配属されました。そこは新卒採用組が多く集まるチームで、僕の後輩が数名いました。これまで話したことは数えることしかありませんでした。僕は職場で人と雑談することがほとんどありませんから、その後輩とも基本は仕事に関する話しかしませんでした。

異動から1年が経ち、そのチームでやっている仕事を一部任されることになりました。引継ぎとして、ある後輩、仮にAさんとしましょう、Aさんからある作業を引き継ぐくことになったのですが……

 

コミュニケーションのずれ

その人は、メールで作業内容を伝えてくれたのでした。2000字ぐらいの長文のメールに、補足のワードファイルが3つと、昨年使用していた作業用フォルダのリンクが添付されていました。これを読んで、わからないことがあったら質問してください、とのことでした。

ちょっと気が滅入りました。Aさんは僕のはす向かいの席にいます。直接教えてくれればいいのに、と思ったのですが……

その時僕は別のプロジェクトが佳境に入っていて、わりと忙しくしていました。席にいる時もバタバタしていたし、そもそも席にいることもあまりありませんでした。

だからAさんからすると話しかけにくかったのかもしれません。カットインしづらかったのかもしれません。Aさんからすると、僕の仕事を妨げたくない、邪魔したくないという配慮で、メールでマニュアルを送る、という方法を取ったのだと思います。

ただ僕からすると、未知の作業のやり方をテキストベースで指示されるのは、けっこうしんどいことでした。やったことのない仕事に関する内容を、まず文章を読み込んで、添付ファイルやリンク先のフォルダなども確認したうえで、自分がなにが分からないのかを整理してから質問しに行く、というのは、わりと負担を感じるものでした。

ただ、この指示されている作業は、今すぐやらなければならないものでもないようでした。実際、Aさんに聞くと、この作業を実施するまでにはしばらく猶予があるようでした。僕は前述の別のプロジェクトがもう少しで締め切りだったので、いったんこの作業のことはペンディングにして、そちらのプロジェクトに専念していました。

ところでこの作業の指示メールは、僕だけでなく、もう一人の別の後輩にも宛てられていました。この後輩、仮にBさんとしましょう、Bさんも僕と同じく昨年からジョインした人で、今年も新しく仕事を任されているのでした。

で、僕が別件PJに取り組んでいる時、Aさんが帰り際に「明日在宅勤務にするんですが、メールした件はBさんに教えたので……」と伝えてくれました。わかりました、と僕は言いました。

それでちょっと忙しかったんですが、Bさんに作業について簡単に、サマリー的に全体像を教えてもらいました。そしたらそれが、すごくすんなり理解できたんですね。ああ要はこういう作業なのね、と膝を打つ感覚でした。長文のメールに書いてあったことの意味をすんなり理解することができたのです。

文章だとわからなかったことが、実際に目の前で、PCの画面なども見せつつ教えてくれると一発でわかってしまう。かなりコミュニケーションがスムーズだな、と思いました。

 

悩んだ末の方針

それで、これは直接Aさんに言ったほうがいいなと思いました。とはいえ後輩の仕事の指摘をする、ということを僕はこれまでやったことがありませんでした。2年目の時は自分は人に教えることもできないぐらいダメ社会人でしたし、3年目以降はずっと自分が一番下の部署にいて後輩がいませんでした。後輩に指摘したら嫌われるんじゃないか、ウザい先輩だと思われるんじゃないか、自分がいないところで悪口をAさんの同期や親しい人にいわれるんじゃないか――といった不安が強烈にありました。

それで、いろいろ悩んだり、親しい人に相談したりして、方向性を決めました。それは、指摘するというスタンスではなく、相談するというスタンスで話す、ということです。つまり、「その仕事のやり方は違う」と言うのではなく、「今のやり方だとこういう困難を感じていて、できれば違うやり方だとありがたいのだけど、あなたはどう思いますか?」というものです。

それを相談するときの方針ですが、あまり深刻な相談をするのではなく、あくまでもさらりと話す、ということに決めました。なので別室に呼び出したりせず、Aさんが席に座っているときに話しかける。また、周囲に人がいる時に話しかけようとも思いました。人に聞かれたくないような後ろ暗い話題ではないよ、という雰囲気にしようと思いました。

 

実際に相談する

で、当日。意を決して――というふうに身構えると緊張してしまい、それが相手にも伝播して緊張させてしまうのであくまで見切り発車で――話しかけました。

いきなり相談を始めるのではなく、まずはもらった指示メールの内容について、いくつか質問をしました。まずはAさんのメールの通り、読んだ上でわからないところを質問する、というスキームに乗ったのです。

ちなみに、Aさんの隣の席には、僕と同じ作業を引き継ぐことになっているBさんが座っているのですが、僕はあえてAさんとBさんの間に椅子を置いて座って話しかけました。Bさんと反対側に座って話を聞いたら、Aさんが僕に作業の内容を話しているときに、AさんがBさんに向かって背を向ける格好になってしまいます。僕はそれは好ましくないと考えました。僕がAさんに聞く仕事の話は、Bさんにも関かかわる話です。だからBさんにも話を聞いてもらったほうがいいと思って、あえてBさんとAさんの間に座りました。

Aさんの隣に座って、メモを取りながら話を聞いていきました。そうすると、Bさんが自分の仕事の手を留めて、こちらに体を向けて、僕と一緒に話を聞いていました。「一緒に聞きます」とのことでした。

で、一通り質問をし終えて疑問が解消したとき、僕は「ちなみに……」と言って、相談事を切り出しました。いまの指示のされ方は正直しんどい。Bさんに作業のことを聞いたら、すんなり理解できた。Aさんのメールの書き方が雑とかそういうことではなく、単純に僕の処理能力が低いゆえの問題だが、できれば直接教えてほしい。Aさんはどう思いますか?

Aさんは、「リーブスさんが忙しそうだったので……」と打ち明けてくれました。やっぱりそうか、と思いました。Aさんは僕が忙しそうにしているから話しかけづらかったんです。気持ちはわかります。僕も1年目の時はそうでしたから。でもそういうふうに不必要に顔色をうかがっていてはスムースに仕事を進行できない、とある時気づかされて、それ以降図々しく話しかけるようにした、という過去がありました。

そういう話はしませんでしたが、Aさんの、僕に話しかけにくいという気持ちには共感を示しつつ、それでも話しかけてほしい、と伝えました。その際、次の2点も説明しました。

①話しかけられても嫌だとは思わないし、不機嫌になることはない。今は難しいから後にしてほしいとお願いすることはあるかもしれないが、そんなにはないと思うので、遠慮なくカットインしてほしい

②席にいないときは、会社のスマホで電話をかけるとかしてもらってもいい

それを言ったら、納得してくれました。

 

やってみた感想

まあ、Aさんが内心どう思っていたのかはわかりません。もしかしたら電話などという昭和のコミュニケーションツールに頼る前時代的でダサくてウザい先輩という烙印を僕に押していたのかもしれません。自分が相手に対する配慮で書いたメールを否定されて不愉快になったかもしれません。

ただ、僕が「メールで未知の仕事のやり方を教わるのはちょっとしんどい」と言った時、隣にいたBさんが「私もそう思いました」とコメントしてくれたのは、大変ありがたいことでした。僕の感覚は独りよがりのエゴではなく、一応普遍性のあるものだったんだ、と自信を持つことができた一幕でした。

後輩に対して仕事のやり方を「指摘する」のではなく、「相談する」。社会人7年目にしてはじめてそういうことをしまいした。勇気を必要とすることでしたが、やってよかったと思います。人として一つ成長できたと思った出来事でした。