研ぎ澄まされた孤独

とりとめのない思考を無理に言語化した記録

感想:岡本一郎『グーグルに勝つ広告モデル』(光文社新書、2008)

昨日代々木を深夜徘徊している途中に寄ったブックオフで発見し、衝動買いしました。

グーグルに勝つ広告モデル?マスメディアは必要か? (光文社新書)

グーグルに勝つ広告モデル?マスメディアは必要か? (光文社新書)

 

雑誌、新聞、テレビ、ラジオの4つのマスメディアがインターネットの台頭によってどのような変化を余儀なくされたのかを記した本です。

 

これが発売された2008年5月といえばアイフォン3Gが発売される直前であり、まだフェイスブックが引き起こしたと言われるチュニジアジャスミン革命(2010年12月)も起こっていない時期です。つまりこの本は今ではすっかり日常生活に馴染んだスマートフォンSNSといったものが普及していない時期に書かれていたわけです。

しかし著者の考察は先見の明をもっているといえます。2つ例を紹介しましょう。

 

1 テレビはタイムシフト型に移行する

本書の中では具体的にどのようにタイムシフト型のプラットフォームが実現されるかというのは書かれていませんでした。これは、いま各局がHPで行っているオンデマンドサービスが代表例だと思います。ぼくはフジテレビの月9の『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』をネット深部にアップロードされた動画とフジテレビオンデマンドで全話視聴しました。おそらくそういうことを著者は予言していたのだと思います。ぼくは使ったことはありませんが、ガラポンTVとかはそういうものなのだと思います。あと、Netflixで『テラスハウス』が配信されているのもタイムシフト化の潮流の上にあると思います。

 

2 オピニオン軸で新聞を差別化する

単なるニュース発信メディアとしての新聞はほとんど意味をなさなくなり、人々は新聞社がネットで発信している無料のニュースをもとに情報を得ています。そんななか、人々がお金を払ってでも欲しいのは、細かな分析とオピニオンを兼ね備えた記事です。Newspicksなんかはその典型だと思います。あれが面白いのは著名人にネットの記事を分析とオピニオン付きで"pick"させている点です。それだけでたんなるまとめサイトとの差別化に成功しています。さらに編集部のオリジナルコンテンツを有料で販売し、有名pickerに分析とオピニオンのpickをしてもらうという、うまいビジネスモデルをつくりだしました。

 

以上の話からなかなかこの本のもつ予言力は強いなと思ったわけです。他にもFMラジオはネットに代替してAMラジオは完全シニア向けメディアになるといった予言(提案)もなされているのですが、そこら辺はまだ判断がつきません。ただ、スマホの普及とインターネットサイマル放送・ラジコの登場がしばらくラジオ業界を延命させるのではないかという気がぼくにはしなくもないです(2015年12月にスタートした「ワイドFM」もそれに協力していると思います)。

 

さて、この本で僕が一番印象に残ったのは、本書15P ……冒頭にでてきた話です。項目タイトルは、『メディア/コンテンツビジネスは「過去」と競合するビジネス』

 

どういうことでしょうか。

 

例えばいま講談社の文芸編集部が恋愛小説の企画を立てたとしましょう。恋愛小説を読みたいと思っている人は世の中にたくさんいるでしょう(おそらく)。

 

でも、恋愛小説って、すでに世の中に無数にあるんですよね。極端な話、『源氏物語』から『恋空』まで、恋愛を描いた作品なんて数えきれないほどあります。小説だけじゃなくて映画や漫画、アニメまで含めたらもっと増えます。「恋愛」を大きく捉えて「娯楽」と変換すると、ありえないほど数は増えます。

 

そのありえないほどの数のコンテンツを全てチェックしてきたなんて人はいません。だから今の人々は、言ってしまえば、今講談社が作ろうとしている恋愛小説を読む必要はないのです。源氏物語でもよんできゅんきゅんしていればいいのです。

 

ここでコンテンツ業界の恐ろしさがわかります。つまりコンテンツというのは、現在ある競合他社のコンテンツだけでなく、「過去」とも競合することになるのです。今エンタメ業界の人が創りだそうとしているコンテンツは、今まで全人類がつくってきたすべてのコンテンツが敵になるのです。

 

これが最も如実に現れているのが映画業界だと思います。いま映画館で映画を見ようとする人はあんまりいません。1800円払うよりも、ツタヤで旧作の映画を100円で借りたほうが遥かにコスパがいいからです。さらにはNetflixやHuluの登場により、コスパはさらに高まってきました。人々は安くて古いコンテンツを見ているのです。だってまだ見ぬ過去の名作はたくさんあるのですから。

 

姿の見えないコンテンツ業界の敵――ヤツの名は「過去」だ。