研ぎ澄まされた孤独

とりとめのない思考を無理に言語化した記録

バーに行った時の話

俺はその日南新宿のバーに来ていた。20時すぎのことだった。21時から飲む約束をしていたが、時間があったため、一杯飲んでおこうと思ったのだ。そこは初めて入る店だった。

15席ぐらいのカウンターは一番手前の席以外全て埋まっており、この店の人気ぶりがうかがえた。俺はその手前の席に通された。

俺はウォッカトニックを飲みながら棚にある酒のラベルを眺めていた。左隣に座っている女性が延々とバーテンとしゃべっていた。バーテンは初老で物腰の柔らかそうな男性だが、「新宿もいろんな人がいますねえ」などと言っているあたり、新人らしかった。

ウォッカトニックを半分くらい飲んだ時だ。バーテンが、オーナーらしき男性に呼び出され、店の入り口付近に寄っていった。俺の席が一番入り口に近いから、ほとんど俺の後ろに立つという状態だ。

オーナーがバーテンに言った。

「女性のお客さんにばかり話しかけないで、男性のお客さんにも話しかけて。急いで!」

時計を見るといい頃合いだったのでそろそろ出ようと思っていた。

しかしこんな話を後ろでされた後に店を出たら、まるでサービスの悪さに憤慨した客のようではないか。

ということで逡巡したものの、俺にはそんな店の都合は関係ないので、結局普通に会計をもらった。

外を歩きながら俺は次のようなことを考えた。あのバーテン、客と話してるだけで酒も作らないし会計も用意しない。新人だからか? ということは、あの店の新人はうまいカクテルをつくることができるかどうかよりも、客にいかにうまく接することができるかどうかの方が求められるということだ。それがいいバーへの近道なのかどうか、俺にはわからない。商品のクオリティが顧客満足度を上げるのか、サービスのクオリティが顧客満足度を上げるのか。