6月、土日で広島に行ってきた。社会人になってから出張で2度訪れた都市。グーグルマップを見ればわかるが、中州地帯でとにかく川が多い。たぶん太古の昔は一つの土地だったのが、どこかで文字通り地殻変動が起きて陸が割れ、川が裂け目に流れていったのだろうなあと想像したくなる地形だ。それゆえ、広島湾の風が川に運ばれて市内まで渡ってくる(ような)気持ちよさがあふれている。
羽田空港のサクララウンジでビール。 ごらんよビール、これがカネ(の力)だよ。
広島空港から高速バスで約1時間、市内に着く。めんどくさいけど、バスから見える川や山もいい景色。
日差しが強い。時刻は11時半。
バスに乗り、目的地へ行った。一人、また一人と乗客は降り、最後に僕だけが残った。そして降りた。
誰が行くの? という雰囲気。車は多少通るが、基本は何も通らない。誰も歩かない。たまに車がまっすぐ走る機械的な音が静寂を切り裂く。それが過ぎると、また生命が消える。
広島市環境局中工場。つまりごみ処理場だ。
なぜこんなところに来たか。2021年の暮れに見た映画「ドライブ・マイ・カー」でここがロケ地に使われた。印象的なシーンだった。で、ここが実は建築家の谷口吉生の設計だということを知る。行ってみたい――。
建物に入ると、こんなふうにまっすぐ通路がある。両側にごみ処理の機械があり、ガラス張りになっていて中を見ることができる。
通称「エコリアム」。エコロジーとアトリウムのカバン語ですかね。
奥まで進むと、広島湾を望むデッキに出る。
エレベーターホールもガラス張りだった。 自動ドアはにゅーんとなめらかで、速度の緩急の加減が効いた動きをした。動き始めはゆっくり、動くときは早く、停止するときはゆっくり。運転がうまいタクシードライバーの発進と停止。金沢21世紀美術館とか、法隆寺宝物館とか、豊田市美術館とかのガラスのドアもこういう動きをしていた。
海際では釣りをしている人もちらほらいた。 たしかこの段差に西島秀俊が腰掛けてなかったっけ……ということで、ここに座ってみる。日差しのまぶしさに目を細めながら潮風を受けてみる。
戻る。まっすぐ。
入り口のところから市内方面を望む。道に対してまっすぐ。
グーグルマップを見ればわかるけれど、この先に原爆ドームと平和記念公園、原爆死没者慰霊碑がある。3つを結ぶのが「平和の軸線」。丹下健三が構想、設計した一本の線だ。それを南にまっすぐ引っ張った先にこのエコリアムがある。この軸線をエコリアムで止めてはならない。広島から海を越えて世界に届けなければならない。ゆえにエコリアムの内部には、軸線を遮らないようにまっすぐ通路が作られている。
ごみ処理場。役目を終えたものが集積される場所。魂を失ったものを焼却する場所。最終地点。慰霊の空間。それが「軸線」端にあるというのは象徴的にも思う。
原爆ドームを真正面から見る
バスで中心部に戻る。車でいっぱい。エネルギッシュな街だ。 ふつうの電線は地中化されてるのに、路面電車があるためにそのための給電線はのこったままなのがなんともちぐはぐしていてよい。
キング軒の汁なし担々麺でランチ。 たぶん、出張で行った時も食べた。ていうか東京にもある。おいしかった。
で、平和記念公園へ。真ん中のアーチ型のオブジェが原爆死没者慰霊碑です。
原爆ドームのほうに行くと、元安川に出る。一級河川。
相生橋からドームと川。
ドームの前に来た。
たぶん昔、小学生の時に家族で来たと思うんだけど、こんなだったか。
よくいままで持ちこたえてるなと思うわ。
柵があるとはいえここまで近くで見れるのはすごい。ところでこのドームの説明書きパネルが脇のほう、南側の公園に接するところにあるのだが、ほとんどの観光客はそのパネルがあるところ――ドームの横っ腹が柵のかなり遠くに見える位置――から写真を撮ったりして、そして次の目的地に行っちゃうんですよね。いやいや、すこし歩けばこうやって間近に建物を見れるんだけど。ドームの正面から内部の瓦礫の山とかも覗けるんだけど。でもみんなパネルのところで満足して、踵を返しておりづるタワーとかに行ってしまう。これはよくないんじゃないかと思いました。パネルの位置を変えるとか、パネルに「あっちがメインスポットです」みたいなことを英語でデカく書くとかしたほうがいいんじゃないかなあ……
川べりで満ち潮に飲まれて
いったん宿にチェックインして荷物を下ろす。安さだけで選んだところです。広島駅前の宿を選んだのでドームから結構遠かった。路面電車で乗るときにSuicaをタッチしそびれて車掌さんに迷惑をかけたりした。 ひと眠りして、また中心部に行く。野球の試合があったのか、カープのユニフォームを着てキャップを被る人がぞろぞろと歩いていた。
やっぱり川が多い。
いいね、こういうところでゆったりしたい。
本通(広島の繁華街)をぶらぶらしていたらちょうどいい感じに涼しい夕暮れになっていった。
旧友と飲む。 半個室のいいところで日本酒を飲んだ。我々も大人っぽいことするようになっちまったな、とか言いながら最近の恋愛事情とかを交換した。
次のお店を探すのも面倒なので、ドーム前の川べりでしゃべることにした。 我々のほかに若い集団が楽しそうに飲んでしゃべっていた。音楽をかけて騒いだりするのではない。穏健な、モデレートな若者だった。彼らを横目にしっとり、とりとめのないことをしゃべった。ほとんどがアイデアの連想だった。酒の酔いで思考のロックを外して、可能な限り自己検閲をせず、発火した火種に漏らさず空気を送った。
そうこうしているうちに川の水位が上がり、我々は少しずつ陸に後退していった。そう、潮が満ちていくにつれてこの階段は沈んでいくのだ。最初、コンビニで調達した飲み物を携えてここに来た時に友人の警告を聞いたときは「そんなバカな」と思っていたが、きわめて順当にそうなった。みるみるうちにあの爽やかな川が黒い闇をたたえていった。なみなみと注がれた濃いブラックコーヒーみたいだった。それが徐々に足元を侵食していき、我々はどこかのタイミングで川べりを去った。
硬めプリンと硬すぎアボカドジュース
朝。ビル、橋、山、川。広島。
ホテルで検索していた喫茶店に行く。広島にもドコモのシェアサイクルが進出していたので、スムーズにレンタルし、急行。中を見ると満席っぽかったので、とりあえず本通のスタバで朝食。スタバはどこ行ってもスタバで安心する。東京のスタバより席の感覚が広い。 地方都市のスタバいいなあ。とか思いながら日記を書いていた。
で、もう一度目当ての喫茶店へ。空いていたので入店。雰囲気よし。店員さんも笑顔で出迎えてくれた。ゆったりと温厚な雰囲気で話す人で、店内も時間が外界の0.75倍速ぐらいで進んでいるような感じがした。
プリンとアボカドジュースを注文。 プリンは硬め。おいしい。アボカドジュースは、ほんとにアボカド100%だった。ジュースではなく……何? 少なくとも液体ではない。ストローを挿して飲んだら、ストローの中に完全にその固形が残存する。トッポのチョコ状態。でもおいしかった。かなり栄養を採っている実感がわいた。
ステンドグラスも華美じゃない模様でいい。 店内の様子も撮りたかった。
それからまたチャリにまたがって、駅前に戻る。駅前の百貨店・福屋の上階にあるジュンク堂に併設されたカフェへ。またカフェか。でも行きたかったんです。というのも……
この見晴らし。タイミングよく窓際の席が空いていた。12時ちょっと前だから人多いかな、と思ったのだが僥倖だった。遠くに山(たぶん方角的に絵下山とかだと思うけど自信ない)、手前に川、そしてそれを渡る橋。いかにも広島っぽい風景だと思う。
帰りの空港行のバスを1つ見送ってここで過ごした。
空港では何もできず、着いたらすぐ手荷物検査して搭乗した。広島空港、全然探検できなかった。でもそれよりも「水の都」を上から眺める景色を堪能するほうがはるかに有意義な体験だったと確信している。