空港には各航空会社が「ラウンジ」という空間を擁している。主に国際線で、ビジネスクラス以上の上級席の乗客などに向けて開放される施設だ。アルコール含む飲み物と食べ物が無料で提供されている夢のような施設である。そんなラウンジだが、JAL国際線ラウンジで提供される「JAL特製オリジナルビーフカレー」が大変うまいと評判。
御料鶴ホームページより
ぜひ食べてみたい。ただこれを食べるには、ビジネスクラス以上に乗る、またはクレジットカードの上級会員になるといった高いハードルを超えて国際線ラウンジに入らなければならない。しかしそもそも今の時期、国際線に乗るのは難しい。だからラウンジには入れないし、カレーにもありつけない。
ところが今年3月ごろ、「門外不出の味」をラウンジの外で楽しめるようになった。それがJALの運営するレストラン・御料鶴(ごりょうかく)である。
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どこにあるのかというと、成田空港から車で15分ぐらいの田畑の合間にある。僕は免許は持っているが、教習所の卒検以来一度も運転していない。コミュニティバスみたいなのも通っているみたいだが、運行頻度は極めて低い。歩くしかないーー成田空港から脱出するところからスタートした。
先に断っておくが、どう考えても歩いて行くところではない。
おおまかな地図はこちら。
徒歩で空港を出るのは一応可能で、僕はこちらのサイトの情報をもとに成田を脱出した。
成田空港に、自転車や徒歩で簡単に出入りする方法【写真あり】 | じてまにドクターのマニアック自転車情報ブログ
一応僕なりに説明すると下記のようになる。
①まず第3ターミナルの出発入口に行く。建物の2階部分だ。ここでターミナル入り口を背にしてペデストリアンデッキを少し進むと左手に第2ターミナル方面へ至る下りエスカレーターがあるので、下りる。
②下りたらすぐ右方向に転回する。ペデストリアンデッキの下の薄暗くて埃っぽい空間にエレベーターがあるが、それは無視。左脇にバスやタクシーなどが走る車道への道が続いているので、そこを出る。
こんな感じの道
③道なりに沿って歩く。近くには警備員や警察官などがいるが、特に気にする必要はない。ここを徒歩で行き来する人は空港職員をはじめ、飛行機撮影マニアなど少なくない。堂々と歩こう。一度右側に大きくカーブを描きながら沿って歩くとゲートの脇の狭いところを通ることになるが、車道と違い、とくに警備員とのやり取りなどは発生しない。ふつうに歩けばよい。
これがゲート(入場する側から撮りました)
それで成田空港は脱出できる。
さて、ここから御料鶴までグーグルマップによれば徒歩50分だ。歩くしかない。だが前述のとおり、ここは車移動が基本となるため、人の移動は想定されていない。したがって歩道も未整備であることが多いので、覚悟して臨む必要がある。以下、箇条書きで「困難」の数々を記す。
・トンネルがあぶない
往路ではグーグルマップの指示を無視し、「東峰神社」へ寄り道するためのルートを通った。そんなに遠回りではないが、トンネルを3つ潜り抜ける必要がある。2つ目のトンネルが危険だった。ガードレール付きの歩道がない。そんなに長いトンネルではなく、50~100メートルぐらいしかないのだが、それでも「対抗から車が来たら向こうは気づかないのでは?」と不安になる暗さだ。顎にかけていたマスクを着用し、砂ぼこりの溜まったトンネル内を歩いた。自分の足音が怖くなり、途中から走って出口を目指した。
東峰神社への入り口は白い塀に囲まれていて不気味。鳥居にはクモの巣が張ってあるので注意。ラベンダーが咲いている。トンネルの写真? 危なくて撮ってない
・虫がいる
まあ人のいない田舎なので仕方ないのだが、僕は虫が苦手だ。地面にカメムシが歩いていたり、カメムシの死体が転がっていたり、足の長いクモが壁に巣を張っていたりするのを見るとぞわっとしてしまう。あと畑の広がるエリアに出ると、聞いたことのない鳴き声を放つ虫などが草むらにいるようで、少々薄気味悪かった。
・成田闘争の痕跡が見られる
まあこれは困難というか、望んで見に行ったものである。前述の東峰神社寄り道コースを歩いていると、下記のような看板が見られる。
グーグルマップを見ると、東峰神社のほかにもう一本、盲腸線のような道路が南に向かって伸びている。ここにこんな櫓がある。森みたいな場所だ。近くに軽トラと山小屋みたいなのがあったが、誰が使用しているのか、そもそも今も使われているのかはわからない。木々にはクモがたくさん巣を張っていて、そこにノコノコと乗り込む僕はクモに食われてしまうんじゃないかという想像をしてしまった。
ゲバ文字。なお、第3滑走路(C滑走路)は今年1月、2028年度末までに新設されることが国交省によって許可された
・マジで遠い
トンネルさえ抜ければあとはただまっすぐ「成田小見川鹿島港線」を歩くだけなのだが、とにかく長い。ところどころに信号があり、車通りも多いため、ド田舎というわけではないのだが、長い。とはいえ体力さえあればなんとかなる。歩いている人もいないので、好きな音楽を聴いてカラオケしながら歩くのもよいだろう。
畑に目を向けると遠くに雄大な自然を感じる
・トンネルがこわい
復路の話。グーグルマップの示す最短ルートで行くと、長い長いトンネルを潜り抜けることになる。一応歩道専用の道が作られているので、車と接触する心配はない。だが、あまりにも長い。こわい。長すぎて、どこかで力尽きて壁にもたれたまま絶命し白骨化した遺体などが あるんではないかと想像するほどだ。
虫はいないがなぜかごみのポイ捨てが多い。コンビニおにぎりのフィルム、カン、ペットボトル……どういう神経でここに捨てたのか。定期的に清掃などもされないだろうから、だいぶ年月が経っているんだと思う。
入り口付近、中ほど、出口。明かりはちゃんとついているが、ところどころ切れているところもあり、そういうところは暗くて不安になる
・道に草が生い茂っている
前述のトンネルの入り口と出口の話。コンクリートの隙間から腰ぐらいまでの高さの草が生えており、邪魔。虫は目視では確認できなかった。雨が断続的に降っていたため濡れており、ジーパンが湿った。冷たくて、もう夏は終わったんだなと曇天を仰ぎながら感傷に浸った。
森を探検する子供のように草を掻き分けて進もう
そんなところか。あとは復路で長い長い道のりを歩いた末にローソンで買ったエクレアのおいしかったこと。そのあとお茶を飲んでタバコを吸っていたらまた雨が降り出したのだった。
帰り道、あまりにも糖分が足りてないのを感じ、購入
……え、肝心のJALカレーはどうしたのかって? これが残念なことに予約でいっぱいで入れなかった。この長い距離を踏破したにも関わらず入れないとは! しかし不思議にも僕はそんなにショックではなかった。そりゃまあ人気だってことは知ってたし、ランチタイムを外したとはいえ(15時ごろに到着)、シルバーウィークだし人もたくさんいるだろう。予約をしなかった僕が悪いのだ。という自罰感情よりは、むしろ「今はまだ食べるべきタイミングではないのだ」という納得感があった。
店員さん(キャビンアテンダントさん?)が沈痛な面持ちで「今日は予約でいっぱいなんです……」。まったく嫌な気持ちはしなかった
たぶんもう五稜郭(←変換するのがめんどくさい)には来ないだろう。車も運転できないし、この道をまた歩くのはありえない。しかしJALには間違いなく乗る。来るべきその日にカレーを食べて、この苦い経験を思い出せばよい。そう考えた僕は、AirPodsを耳にはめ、君島大空を聞きながら成田空港へと引き返したのだった。
このあと僕は18時30分の便で福岡に行くのだが、それについてはまた稿を改めねばならないだろう