山手線大崎駅直結ビルに、O(オー)美術館というギャラリーがあります。品川区の財団が運営しているようです。
以前、隣町の五反田に住んでいて、その存在は知っていたものの特に気になる展示がなかったので行かずじまいでした。でもいつかは行きたい。そんなことを思っていた2021年の暮れ、展示予定を見ていると「首都高の芸術展(仮)」という記載を発見しました。
都心に住んでいる以上意識せざるを得ない首都高。高層ビルの合間を縫うようにして走る空中サーキットは、漫画やアニメ、海外の映画などでも東京を象徴する存在としてモチーフにされてきました。見てみたい。1年後の自分に向けて、「この展示見ろよ!」とiPhoneのリマインダーをセットしました。
あれから1年。リマインダーは無事発動し、その存在を思い出しました。会期は1週間だけ。行くしかない。
で、行ってきました。入場料無料。どうやって運営できてるんだろう?
①首都高の建設、②日本橋、③レインボーブリッジ、④その他、というふうに展示が分かれていました。どれも面白かったり、きれいだったりしてよかったです。
展示はすべて撮影禁止なので、気になった作家さんの名前はメモることしかできませんでした。
この人はキリッとした線で、首都高を描いています。青空がきれい。情報量が削がれた絵なのにじっと見つめたくなる魅力があります。シティポップのCDのジャケットみたいな、わたせせいぞうっぽさも感じます。
この人は、人類消失後の荒廃した箱崎ジャンクションなど、ポストアポカリプスな絵を描いていてよかったです。
会田誠。「日本橋に空を取り戻す」(後述の事業のことを指します)というのなら、首都高の上に橋をかければいいじゃん、というギャグ作品。じつは同じ発想で絵を描いた人が2012年にいて、その絵も隣に飾ってありました。
共通しているのは、スパゲティみたいに街を張り巡る首都高に美を見出すという倒錯した視点です。あんな大きな灰色の道路、いかつくて、空が遮られるようで、全然スタイリッシュじゃない。ともすれば汚い、煤汚れている、暗い、みたいなイメージもあるでしょう。
とくに日本橋ーーかつて水都・江戸の中心として栄えていた場所ーーにおいて、水運機能を停止してでも水路の上にコンクリートの屋根を被せた首都高速計画は、「東京から空を奪った」と批判する人もいるようです。実際、その声を受けて、いま首都高の日本橋区間地下化事業が進められています。
START!新しい道へ!日本橋へ! | 首都高速道路日本橋区間地下化事業
でもそうじゃない。むしろ、そんな歪な首都高「だから」いいのだと。1964年の東京オリンピックに向けて、羽田と国立競技場のアクセス向上を第一目的とし、都内の交通需要ひっ迫を改善するために、立体交差も辞さない高密度の設計でつくられた首都高には、かつて高度経済成長でイケイケだった日本の希望が詰まっているようです。
本展でも、当時のアサヒグラフが「東京の光、光、光!」という見出しで夜の首都高をとらえたグラビアページが展示されていました。走っている車のバックライトがレーザービームみたいに伸びているのが夢の軌跡のようでした。